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読書録其の21(看板はかわれども、イデオロギーは死なず) 

書名:「環境主義」は本当に正しいか?
著者:ヴォーツラフ・クラウス
訳者:住友進
出版社:日経BP社
価格:(金1500円+消費税)
刊行年:平成22(西暦2010)年 第1刷

さてそれでは、いつものように紹介を致します。

(※):私注となります。

環境主義者の自然にたいする態度は、マルクス主義者の経済に対する態度とそっくりだ。なぜならどちらの目的も、自由で、自発的に進化していく世界(そして人類)を否定しているからである。いわゆる中央集権的に、または、今、流行の言葉を使えば地球規模で、世界を最適な状態に創る計画に取り替えようとしているのである。共産主義の場合と同様に、このようなユートピア的(非現実的)であり、目的とはまったく異なる悲惨な結果になってしまうのがオチだ。ほかのユートピアと同様、このユートピアもけっして実現することはない。無理やり実現しようとすれば、人々の自由は制限され、少数のエリートが圧倒的多数の人間に命令を下すという状況がかならず生まれてしまう。(P.23)
→共産主義も環境主義も「ユートピア状態」が厳密な定義が出来ないため、その運用者(提唱者)側が常に「ユートピア」を再設定し、「未来」に対しての献身を期限無制限に強いる論理体系を保持するためである。

スターンの報告は、基本的に「社会割引率」をゼロに近いと考えている。この前提では、「はるか未来への影響が莫大なものとなってしまうので、現在のCO2の排出量、ひいては実質的にはあるゆる消費をかなり減らすことが正当化されることになる」(P.84)
→割引率というののは有体に言えば利子・利息ということである、例えば私が全く同じ条件と仮定して、今日10,000円と1年後の10,000円のどちらを貰うかといえば、今日貰うほうを選好する。つまり今日と1年後の「10,000円」は同じ価値をもっておらず、1年後には10,000円を超えた金額にしなければ、1年後という選択は行われない。仮にこの利子率を3%とした場合に複利計算を行うと、10年後は13,439円(※以下総て小数点切捨て)、20年後は18,061円、50年後は43,839円、100年後には192,186円という具合になる。割引率はこれを反対にしただけなので、興味をもたれた方は計算してみると面白い数字が出てくるでしょう。

太陽熱と風力も「無尽蔵」にあるから、環境主義は「お金がかからない」と考えている。しかし、経済学者や一般の人と同様、電力技術者も、太陽エネルギーや風力エネルギーが多くの理由で莫大な費用がかかることがわかっている。その理由のひとつは、このような資源を使う電力発電所を作るために必要な土地が無尽蔵にあるわけではないからである。土地は不足しているし、しかもただで手に入るわけではない。(P.94)
→かつての学生時代のゼミで、物理学を教えていた教授が再生エネルギーを指して「農業」と同じく我国では、土地問題が大きな障害になるという指摘を思い出させる。

研究所所員に長期の気候データを所有する気象庁から気候データを提出してもらえないか頼んでみた。すると首都プラハの気温を選ばないようにと忠告された。プラハは大都市地区なのでチェッコ共和国の気候の典型とはいえないからだ。(P.100)
→温暖化の議論の際に、此の手の気候状態の地域変動が異様に激しい大都市圏のデータを出す御仁がいたら、知的誠意に欠ける人物という疑念を抱いてもかまわないということか。

この書はタイトルの通り昨今騒がれている「地球温暖化問題」に対して、古典自由経済学の立場である著者から「環境主義」というイデオロギーに対する疑義を呈する内容となっております。また著者は自由に大きな価値を与えているためその侵害には与しないという立場をとっています。その前提をしっかり受入れて読めば得るものが大きな書になると思います。そして、私にとっては「理想を持ち現実と向き合うこと」と「現実に理想が降臨する」との絶望的な距離の違いを、此書から学べる人が一人でも多く出てくるのを祈念します。
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